“常駐”しているからこそ“価値”がある。 設備管理の付加価値としての省エネルギー事業/エコチューニング
[エコチューニング編]FILE 001
日本空調サービス株式会社 東京社屋
FM管理部 省エネ推進室
リーダー 外崎 洋(エネルギー管理士・第一種エコチューニング技術者)(写真右)
小峰直樹(エネルギー管理士・第一種エコチューニング技術者)(写真左)
エコチューニング認定事業者でもあり、省エネ・脱炭素事業に注力している日本空調サービス株式会社に「事業導入の経緯やメリット」や「省エネに取り組むにあたっての重要な点・意識した点」などについて、お話しをうかがいました。
“病院”という特殊な環境だからこその省エネ活動
―― まずは、日本空調サービスについてお聞かせください。
外崎 弊社は建物設備サービスに携わる独立系企業グループとなっていて、主にPM(保守)、FM(保守・管理)、RAC(設計・施工)の3部門に分かれています。私と小峰はFM部門に所属し、統括的にさまざまな現場のエコチューニング、省エネ事業の計画・指導などを進めています。
―― どのような現場で省エネ活動をすることが多いのでしょうか?
外崎 弊社は病院や製造工場を中心にサービスの提供を行っています。現在でも多くの病院でお仕事をさせていただいておりますが、その大半が病院設備全体の統括管理として受託しています。省エネを推進する立場からすると、この統括管理という管理体制が非常にありがたいです。
―― どのような面で、統括管理が有効に働くのでしょうか?
外崎 蓄積されたデータを見て省エネ計画や施策を立てることは重要ですが、例えばチューニングを実施したあと、データ上では問題ないと判断された病室から冷暖房に関するクレームが発生してしまう、ということがあります。病院は、普通の建物とは使用している人や役割が大きく異なります。ほんの少しのトラブルが、重大な事案を招いてしまうこともあります。
ですが、そういったリスクを可能な限り減らすために、現場に常駐している同僚から、現場の状況や詳細を聞き取ることで、データだけでは見えない部分も把握しながらチューニングを実施することができます。
しかし清掃のみ、設備管理のみ、など分離発注の形で複数社が受託していると、会社の垣根を超えた情報共有が必要となるので、緻密な情報共有などにはハードルが存在します。
一方、病院設備全体の統括管理であれば、ヒアリングをはじめとした現場の情報共有をスムーズに行うことができ、万が一の場合にも即座に状況の共有・対応に動くことができるため、リスクを抑えることができますし、たいへんやりがいのある、おもしろい環境になっています。
―― 病院というと、設備の調整に着手するには大きなハードルがあると思いますが、オーナーがエコチューニングや省エネの提案を認めてくださっているのでしょうか。
外崎 統括管理を行っていることもあって、オーナー様と現場で常にコミュニケーションをとれる環境を構築していますので、非常に提案がしやすい状態です。
何より、昨今は社会情勢やエネルギーの高騰、省エネや脱炭素の気運の高まりなど、「省エネ」へのオーナー様からの関心が高まっていることも手伝って、提案を認めていただけるようになってきました。
そのため、オーナー様との協議を重ね、チューニングを実施するタイミングや箇所なども、患者様に万が一がないよう細心の注意を払ったうえで行っています。
―― やはりオーナーの目下の関心事はエネルギー高騰問題の対策ですか?
外崎 そうだと思います。実際に現場も経験してきた身としては、3.11の東日本大震災が発生してから省エネの需要は高まったと思います。あの当時は計画停電があったり、東京都の条例でCO2削減義務が発生したりと、それまではそれほど興味関心が持たれてこなかった省エネに注目が集まり始めました。
実際に弊社でもそのタイミングで、ただ設備を管理・運転しているだけではだめだと感じ、省エネ事業に注力するようになりました。それまでは業界としても「省エネはやれたらやった方が良い」という位置づけでしたが、実際には設備管理の仕様内では難しいことでしたし、体系化されたノウハウというものもありませんでした。
そこで他社との差別化として大きな武器になると考えました。光熱水費の高騰はオーナー様にとって切実な問題ですし、重要な点です。これまで業務内容などで他社との差が出づらかった設備管理に変化を生めたと思います。
―― 近年のトレンドとして注目を集め始めたものと思っていましたが、10年以上前からその風潮を感じられておられたのですね。
外崎 東京都の話になってしまいますが、削減義務ができた第1計画期間(2010-2014年度)の8%削減はインバータの設置などによる対策のみで比較的容易に達成できていました。当時はインバーターの設置がかなりブームになりましたよね。第2計画期間(2015-2019年度)の17%削減から少し達成が怪しい建物が出てきました。
しかし、まだこれまでの省エネやインバータの設置だけで対応できるところが大半でした。それが第3計画期間(2020-2024年度)に27%削減とだいぶ厳しい数値になりました。この段階に至ってからは、これまでの設備管理の仕様内で行う省エネのみでは達成が難しくなりました。
2011年から年々強まっていた削減義務のプレッシャーは、ここ何年かで急激に大きくなっています。国や自治体もかなり本気なのだと感じています。こういった場面でこそ、「オーナー様のニーズに対応できるビルメンテナンス事業者」としての踏ん張りどころだと思っています。
ちなみに第4計画期間(2025-2029年度)は50%削減の方向で進んでいるそうです。もう、高性能の設備機器への更新を行ってもそれだけだと厳しい数値だと思います。再生可能エネルギーの利用等も重要なポイントとなりますが、機器の力を最大限に引き出せるエコチューニング技術の需要がますます高まるだろうと感じています。
【参考】「総量削減義務と排出量取引制度」に関する第4計画期間の削減義務率等について(東京都環境局)
エコチューニング・省エネ活動のノウハウ
―― エコチューニング・省エネ活動に取り組むにあたっての重要な点をお聞かせください。
外崎 まず、エネルギーは「消費量を下げればいいことずくめ」だということを認識し、それをオーナー様にどうお伝えするかが一番重要だと思います。
また、現場を隅々まで把握することも重要です。実際にデータで見るだけではわからない、感じることのできない情報が多々ありますので、現場で常駐している方とのコミュニケーションを重要視しています。
そして、私の中で省エネに取り組むにあたって大事な意識が2つあります。
一つ目は、大きいことから手を付けることです。分析、指摘と細かすぎるところまで凝ってしまう人がいますが、細かい、小さい部分は後に回し、先に大きい部分をつぶすべきだと考えています。
二つ目は、素早く実行まで移すことです。先ほどの話にも関わってきますが、計画をやろうと考えてから、やらなかった間の削減できたであろうエネルギーや光熱費は取り戻せません。どのタイミングでやるかではなく、いち早く実行に移すことが、オーナー様にとってのメリットとなります。
―― 他にエコチューニングを進めるにあたって意識したことはありますか。
外崎 他に重要だと思い意識していることは、安全性の考慮ですね。少しのミスでも命に関わったりする現場ですから、まずはバックヤードから実施していました。
それから、安全性を担保できたことを踏まえてオーナー様に交渉し、事務所や共有部へ順々にチューニングを行っていくことが基本です。安全性をクリアにしつつ、エコチューニング計画をていねいに説明すれば、基本的にはご理解いただけるパターンが多いです。
小峰 私が省エネ提案をするときに考えているのは、「あくまで決断するのはお客様であって、その決断をフォローするのが私たち」だという意識です。
そのために、エコチューニングの実施によって見込まれる効果を、数字などで分かりやすく取りまとめた資料として提出し、メリットだけではなく、リスクも含めた「判断していただくために必要な情報」を十分にお伝えする必要があります。また「提案して」「決断して」いただいて終わりではなく、アフターフォローも重要です。成果報告をしっかりと行い、次の提案につなげるように心がけています。
▲日本空調サービスが掲げる省エネ活動の基盤
―― 逆にエコチューニング事業・省エネ事業で大変だった点はありますか?
外崎 9割の省エネ施策がうまくいったとしても、1回でも問題が発生してしまう、あるいは成果が出なければ、どんどん評価が厳しくなってしまうところには苦労しました。トライアンドエラーを重ねながら最適解を探っていかなければならないのですが、なかなかご理解いただくのが難しいところです。
小峰 省エネ業務に携わるようになって感じたのは、「高度な知識が必要」ということでした。一般的な設備機器の運転管理業務に関わる知識に加え、自動制御の知識、その2つを高い水準で身につけなければ、常に変化している施設の状況を理解できず、結果として最適な省エネ・エコチューニング計画も立てられないと思っています。
―― 昨今はいわゆる「省エネコンサル企業」も活躍していますが、「ビルメンテナンス事業者」が省エネチューニングを行うことによる『強み』をお聞かせください。
外崎 最初にお話しさせていただきましたが、「統括管理」で現場に常駐しているスタッフが多くいること、また建物すべてを常時管理しているので、これまでの管理状況をはじめとしたデータが蓄積できています。
統括管理をしているビルメン企業が勝っているところは、「日ごろから現場にいること」そして「建物の管理データが蓄積できる」ところだと自負しています。
―― 最後に、今後の設備管理はどう変わっていくと思いますか?
外崎 時代がかなり変わっているのを肌で感じます。かなり前の時代は「お付き合い」があるから、契約がほぼ自動で更新できていたという状況だったこともありました。
一方で、現在は社会におけるビジネスそのものの変化によって、そうした「お付き合い」だけでは契約は維持できず、どれだけ自社の強みをアピールできるか、それがオーナー様にどうメリットになるのかを伝えなければ選ばれない時代になりました。
そんな中でも「省エネができる」という武器は、非常に強力なアピールになります。というのも、削減想定から結果に至るまで、すべてが数値化できるという特徴があるからです。
営業・提案という面において「自社の設備管理の強み」を言葉の上で伝えることよりも、削減額など、数値として明確な情報をオーナー様に提示できる方がはるかに分かりやすく、良いイメージを受け取っていただけます。
エネルギー高騰、環境問題による脱炭素社会実現への流れ、そして、営業活動が必要とされてきた中で、他社との明確な差別化となる大きな武器、付加価値として、今後、エネルギー・コストを含めたトータルマネジメント、エコチューニング技術者や事業者認定はますます必要となってくると思います。
―― 本日はありがとうございました。
2022年10月に開催された「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO2022」にて、外崎氏にご講演いただきました。ぜひアーカイブ映像をご覧ください。
当日の資料は、下記よりダウンロードできます。
【動画公開】エコチューニング事例発表会(エコチューニング推進センター)
Corporate Information
- 日本空調サービス株式会社
Nippon Air Conditioning Services Co., Ltd. - 本社:〒465-0042 愛知県名古屋市名東区照が丘239番2
- TEL:052-773-2511(代表)
- 代表取締役社長:田中洋二
- 事業内容:総合建物設備メンテナンスサービス業
- https://www.nikku.co.jp/ja/index.html
- FM管理部:〒135-8427 東京都江東区潮見2-1-7
- TEL:03-5857-5344
- FAX:03-5857-5345
- ▽FM管理部所属:外崎氏(右)・小峰氏(左)