Q.労基法が改正されましたが、労基署はどのように監督しているのですか? また、送検された事例はありますか?
A.改正された時間外労働の上限規制についても、労基署は監督時に違反がある場合には是正勧告を行っています。この問題で全国初となる送検事例もあります。
2021/10/06 16:00 更新
時間外労働の上限規制に関する労基署の監督
改正労働基準法(以下、労基法)の時間外労働の上限規制は、36協定の特別規定がある場合にも、時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内にするよう定め、これを超えて労働させた場合には、労基法違反になります(労基法36条6項)。
労基署の監督時にこの違反が見つかった場合、是正勧告が行われます。中小企業については経過措置もありましたが、2020年4月から全面施行になりました。
2020年の監督実施状況を見ると、法36条6項違反の指摘が「全業種」で592件あり、ビルメンテナンス業が該当する「清掃と畜」でも10件の違反が指摘されています。
全国初となる、時間外労働の上限規制での送検
法36条6項は、労基法で初めて時間外労働に罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金119条1号)を設けたものとして注目され、その罰則の発動も社会的な関心とされていました。今回、全国初の送検が行われ、労基署もいよいよ摘発に動き出したようです。今回の送検事例はビルメンテナンス業ではありませんが、その留意事項は全業種で気を付けるべき内容だと思います。送検事例の詳細を以下に紹介します。
香川労働局・観音寺労働基準監督署は、令和3年7月20日、○○冷食(株)[事例1]とそのグループ会社の(株)味の○○○[事例2]を送検しました(「労働新聞」、厚生労働省HP公表事案等より抜粋)。
■被疑者
事例1:○○○冷食(株)ほか1名(工場長)
事例2:(株)味の○○○ほか2名(課長代理、係長)
■被疑内容
令和2年4~6月に、○○○冷食及び味の○○○の実習生合計10人に対し、時間外労働の上限規制である月100時間を超えて働かせていた。○○○冷食での時間外労働は最長で月184時間に上り、味の○○○での時間外労働は最長で月171時間に上っている。
今回の事例における留意事項について
送検された両社は中小企業です。通常、中小企業では監督時に100時間超えの違反が指摘されても直ちに送検されるということはありません。まず労基署が十分に指導を行い、それでも是正されない場合に送検という流れが一般的です。
本件の場合、時間外労働をさせていないように偽装した帳簿書類を提出したという事実が背景にあるようで、その点が悪質だと判断されたのだと考えられます。故意に事実と異なる書類を作るなどした事実が判明した場合には、送検対象になりうるということは、十分に気を付けなければなりません。
また、本件での労働者はすべて中国人技能実習生で合計10人であったのですが、技能実習生をめぐっては、過酷な労働をさせる事例もあり、労基署の取り締まりも厳しいといえます。さらに、時間外労働が1社では最長月184時間、もう1社では最長月171時間ですから、かなりの長時間労働であり、この点からも、違反の程度が大きいと判断されたと思われます。
森井労働法務事務所
森井 博子さん
もりい・ひろこ 元労働基準監督官で、全国各地を歴任。
著書に『労基署がやってきた!』(宝島社・刊)。
http://www.morii.jimusho.jp/
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