- 【事例①】
ゴルフ場で、高所作業車のバケットに乗ってコース内の樹木を伐採していた男性作業員2人が、バケットの操作を誤り高圧線に接触し感電死した。 - 【事例②】
工場で、高所作業車に乗って伐採作業をしていた男性が高圧線に触れ、感電死した。 - 【事例③】
光通信の工事中、後退していた高所作業車に警備員の男性がはねられ、死亡した。 - 【事例④】
ビル外周の照明の管球交換清掃作業中、バケットから身を乗り出して作業しようとしたところ、バランスを崩し、転落しそうになった。
多発する高所作業車の事故を検証する
高所作業車は十数メートルの高さのガラス清掃や街灯の管球交換作業などに頻繁に用いられる。手すり付きの作業床(バケット)での作業は、梯子、脚立などと比べ安全性は高い。しかし、最近事故が相次いで発生している。紹介した事例のうち①と②は、いずれも作業前に、作業の場所の状況(高圧線の有無)、高所作業車の設置場所の状況、高所作業車の稼働能力など作業計画を十分に検討しなかったことが要因と考えられる。この作業計画・手順作成には事故防止に向けたリスクアセスメントが欠かせない〔安衛則194条の9、11〕。
高所作業車の操作に必要な技能講習・特別教育
高所作業車の運転には、公道を走る場合の自動車運転免許に加え、作業床(バケット)の高さが10m以上のものには技能講習、高さ10m未満には特別教育を修了していなくてはならない。複数人で作業に当たる場合には、操作する可能性の有る者は、全員が教育を受ける必要がある〔安衛法59条(安衛則36条10の5)、安衛法61条(安衛令20条15)〕。
技能講習は、学科11時間、実技6時間、特別教育は学科6時間、実技3時間となっている(移動式クレーン免許等を有する者には一部科目の受講免除がある)。講習は厚生労働省の指定する教習機関で受講する必要がある。教習機関は下記の厚生労働省のホームページで確認することができる。
作業計画に従い、安全第一で作業を行う
次に、事故事例③と④を見てみよう。
高所作業車の使用は設置場所によっては道路交通に影響を及ぼすことから、警備員を配置して行うことが多い。③の事例では残念ながら交通整理員が被災してしまった。こうした事故を防ぐため、法令では、作業計画に沿って作業を進めるため、作業指揮者を指名することが義務付けられている。また、バケット以外の場所でバケットを操作する場合も多く見られ、その場合は作業者間での合図なども事前に決めておくことが重要である。勘違い、見間違いが大きな事故につながっている〔安衛則194条の10、12、18〕。
バケットの枠(手すり)の高さは作業者の身長を考慮して、1m以上のものが通常である。しかし、④の事例のように、その都度バケット位置を変える手間を省き、つい身体を乗り出して転落するという事故も発生している。手すりがあっても、バケット内に持ち込んだ工具箱に乗って作業する、手すり(枠)に足をかけて作業するといった危険行為は絶対にしてはならない。また、2m以上の高所作業のためフルハーネスの装着、ヘルメット着用は必須である〔安衛則194条の22〕。
また、作業者のみならず、高所作業車本体のバランス(安定性)が何より重要である。転倒・転落の防止には、十分なアウトリガー(安定性を増すために車側部に突き出した装備)の張り出し、設置場所の地盤の沈下防止、路肩の崩壊防止などが重要である〔安衛則194条の11〕。
必要な対策を講じて重大事故を防止しよう
高所作業車の安全管理については、安衛則194条8から28までにこと細かく規定されている。しかし、法に規定されているから、計画を立て、運転者を教育し、指揮者を配置・合図を決める、のではなく、すべては労働災害防止のために必要な対策である。便利で、安全性が高いはずの高所作業車が、尊い命を奪うことの無いようにこのことを肝に銘じていただきたい。
高所作業車の安全のポイント
- ❶ 作業前にリスクアセスメントを実施したか
- ❷ 作業者は有資格者か
- ❸ 作業指揮者は配置したか
- ❹ 作業の合図は決めたか
- ❺ アウトリガーの張り出しは十分か
- ❻ 搭乗人員は積載荷重をオーバーしていないか
- ❼ 搭乗者はハーネス、ヘルメットを装着しているか
- ❽ バケットから身を乗り出して作業していないか
- ❾ 高所作業車から他の場所へ乗り移っていないか
- ❿ クレーン代わりにして荷を吊り上げていないか
参考図書
- 『安全法令ダイジェスト(製造業編)』(労働新聞社・刊 2017年)
- 『イラストで学ぶ 高所作業の知識とべからず83事例』(労働新聞社・刊 2018年)
- 『フルハーネス型墜落制止用器具の知識―特別教育テキスト』(中央労働災害防止協会・刊 2018年)
公益社団法人
全国ビルメンテナンス協会広報委員会 委員
阿部研二さん
1977年中央労働災害防止協会に入社。健康快適推進部長、出版事業部長を経て、2019年5月まで常務理事。