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-創業60期目を迎えて-
ビルメンテナンスを基盤に多角的な事業展開で業界・地域に貢献を

2025/02/10 10:00

―――株式会社大高商事について教えてください。

伊原 大高商事は1965年10月に設立され、今期で創業60期目を迎えます。創業者の高橋文吉と弟の高橋和夫の兄弟で栃木県にて起こした会社です。当時の栃木県はまだビルメンテナンスの認識が低い時代でしたが、東京での状況を見て、栃木県でも同様の需要が生まれるだろうという予測のもとビル清掃事業を始めました。
その後、娯楽施設、事務所ビルや工場へ清掃業務を展開していき、官公庁の施設管理業務も手がけるようになっていきました。

―――伊原社長の経歴を教えてください。

伊原 私は群馬県出身で前職は大手ビル設備管理会社に勤めておりました。エレベーター設備等の営業や事務職を経験し、栃木県に異動になった際に創業者の弟、高橋和夫の長女である妻と出会いました。そのご縁もあり、35歳の時に大高商事へ入社しました。
前職と同業界ではありますが私自身ビルクリーニングに関しては未経験であったため、実際に現場に入って一から経験を積みました。
2016年、49歳の時に三代目として社長に就任し、現在9年目になります。

―――会社の事業内容はどのようなものがありますか?

伊原 主軸のビルメンテナンス事業に加え、給食事業やICT事業、鮮度維持機の製造販売など、多角的な展開をしています。特に注力しているのが指定管理者としての施設運営です。例えば、公立図書館の運営ではノウハウを持つ企業とJV(ジョイント・ベンチャー:複数の企業が、1つの案件を受注、施工することを目的として形成する事業組織体)のようなかたちで連携して業務を実施しています。

栃木県の大規模展示場「マロニエプラザ」における指定管理者としての運営を20年近く手がけており、この分野での豊富なノウハウを蓄積しています。このような施設運営では、単独での受託は難しい面もありますが、各社の強みを活かしたJVという形態で、効果的な運営を実現しています。

20年近く指定管理者として運営している大規模展示場「マロニエプラザ」

―――本当に色々な事業をされているのですね。

伊原 お客さまが何を必要とし、何にお困りなのか。直接的・潜在的なニーズに応えてきたことで自然と事業が広がってきたと思います。
お客さま第一の精神を重視し、効率的な業務遂行と創意工夫を常に心がけています。新規事業の展開においても、単なる事業拡大ではなく、当社の強みを活かせる分野、なによりお客さまとWin-Winの関係が築ける分野を選択的に展開していく方針です。ビルメンテナンス業務で培った信頼関係を基盤に、お客さまのさまざまなニーズに応えていきたいと考えています。

創業以来、「常に奉仕の心を忘れない」「時間と物を無駄にしない」「いつでも創意と工夫に努める」という3つの信条を掲げています。これらは毎週月曜日の朝礼で読み上げ、社内の随所に掲示して、全従業員への浸透を図っています。

―――今、会社が直面している課題はありますか?

伊原 労働集約型の当社にとって、人材確保は最重要課題の一つです。昨今の最低賃金の上昇への対応として、業務契約料金の見直しを行いながら、適切な待遇の確保に努めています。
また、多様な働き方の提供も重視しています。例えば、給食事業では、子育て中の女性スタッフが学校給食の時間帯に合わせて働けるような勤務体制を整えています。清掃業務では、60代以降のシニア層も多く活躍しており、中には80歳近い方も元気に働いていらっしゃいます。

ただ、若い世代の採用については大変苦戦しています。そのため、勤務時間帯の見直しなど、若い世代が働きやすい環境作りにも取り組んでいます。

―――他にも人手不足対策で行っていることはありますか?

伊原 清掃業務におけるロボット化を積極的に進めています。特に広い展示場などでは、AIを搭載した清掃ロボットを導入し、効率化を図っています。最近のロボットはたいへん高性能になっていますので障害物を認識して避けることができ、人手不足が顕著な夜間や早朝の清掃作業も可能です。

ただし、トイレ清掃など細かい作業は依然として人の手が必要です。そのため、ロボット化できる業務はロボットに任せ、人でなければできない業務に人材を集中させるという方針で進めています。

―――自社製品の製造・販売も行っていると聞きました。

伊原 「快蔵(かいぞう)くん」と「いきいきくん」ですね。
製品開発は1990年代に始まりました。最初の開発製品は「快蔵くん」という冷蔵・保冷庫で、これは地元の宇都宮大学との産学共同研究から生まれました。当時の先代社長が大学教授との対話から、ビルメンテナンス事業に留まらない新規事業の可能性を見出し、果物や花の鮮度維持という課題に取り組むことを決意したことが始まりです。その後、「いきいきくん」も開発され、約20年以上にわたって製品開発を継続しています。特許も取得しています。

「快蔵くん」は業務用の大型プレハブ冷蔵庫に特許技術を組み込んだ革新的な製品です。その核となる技術は、温度と湿度の精密な管理に加え、植物が発する老化ホルモンであるエチレンガスの制御にあります。例えば、バナナが黒くなっていく過程で見られるように、果物は自らエチレンガスを放出し、それを吸収することで成熟が進んでいきます。「快蔵くん」はこのエチレンガスを効果的に吸収・制御することで、通常2~3日程度の保存期間を1週間程度まで延長することを可能にしました。これにより、果物や花の商品価値を長期間維持できる画期的なシステムを実現しています。

「いきいきくん」は花屋さんなどに向けて開発された製品で、エチレンガスの分解機能に加え、独自の除菌システムを搭載しています。具体的には、紫外線ランプと殺菌用ランプの2種類を組み合わせることで、エチレンガスの分解と花に付着したカビや菌を効果的に除去します。これにより、花の病気を予防し、鮮度を維持することが可能になりました。

―――これらはビルメンテナンスと一見遠いように感じますが。

伊原 人にとって快適な環境を整えるビルメンテナンス、花や果物にとって快適な環境を整える「快蔵くん」と「いきいきくん」。どちらも「空間を快適にするための環境づくり」という根底は一緒です。

―――なるほど。根底にある考え方は同じなんですね。次に、事業展開されているエリアを教えてください。

伊原 現在、事業の中心は栃木県・宇都宮市エリアとなっています。特に近年、宇都宮市ではLRT(路面電車)の開通を契機に、新しい商業施設やマンションの建設が進み、ビジネスチャンスが広がっています。さらに、LRTの西側延伸計画も進行中で、沿線地域のさらなる発展が期待されています。
東京や仙台にも営業所を構え、清掃事業やICT事業を展開しています。

―――栃木県における課題を教えてください。

伊原 先ほどの話とかぶりますが、栃木県における最大の課題は、若い人材の東京圏への流出ですね。地理的に東京へのアクセスが良いことが、逆に若い世代の流出を促進する要因となっています。現在はシニア層の方々にも活躍いただいていますが、この状況がいつまで続けられるか、という課題認識があります。
外国人雇用については、業界内でもすでに積極的に取り組んでいる企業があり、今後の重要な選択肢として検討を進めています。ただし、住居の確保や、東京圏との給与水準の差など、地方特有の課題もあります。

一方で、栃木県には独自の強みもあります。豊かな自然環境、日光や那須などの観光地、数多くの温泉、そして東京まで新幹線で1時間という利便性です。観光地のホテルなどでは、遠方在住者、滞在希望者への宿泊施設の提供と組み合わせた柔軟な雇用形態を導入し、若い人材の確保に成功している例もあります。
このような地域の特性を活かしながら、人材確保の新しい方策を模索していく必要があると考えています。また、社内でも外国人雇用に関する知識やノウハウの習得を進め、将来的な人材不足への対応を検討している段階です。

―――伊原社長が副会長に就任されている栃木県ビルメンテナンス協会での取り組みを教えてください。

伊原 ビルメンテナンスは社会インフラを支える重要な産業として、なくてはならない存在です。しかし、業界として持続的な発展を遂げていくためには、各企業がそれぞれの強みを活かしながら、相互に成長できる関係性を築いていく必要があります。
特に重要なのは人材育成で、社員の研修機会の確保や資格取得支援など、技術力向上のための環境整備が不可欠です。栃木県協会としても、会員企業の社員が学びやすい、成長しやすい環境づくりを推進しています。

取り組みの一つが、昨年から導入した「協力会員制度」です。従来の会員制度では正会員と賛助会員の2種類のみでしたが、より多くの企業に協会活動に参加していただけるよう、新たな会員区分を設けました。
これは会費を正会員より抑えながらも、協会のサービスや特典を受けられる制度です。背景には、会員数が減少傾向にある中で、いかに新規会員を獲得し、業界全体を盛り上げていけるかという課題がありました。この制度により、まずは気軽に協会活動に参加していただき、将来的な正会員化につなげていければと考えています。

―――栃木県協会活動について、今後の方向性はありますか?

伊原 大きく3つの方向性があります。1つ目は、社会貢献活動を通じたビルメンテナンス業界の認知度向上です。私たちの仕事は社会インフラの維持に不可欠ですが、まだまだ認知度が十分とは言えません。
2つ目は、研修・教育プログラムの充実です。ロボットやDXなどの技術の進歩や社会ニーズの変化に対応するため、継続的な学習機会の提供が重要です。非会員企業も参加できる講習会は、業界全体の技術力向上に寄与すると考えています。
3つ目は、会員企業間の協力関係強化です。各社が持つ強みを相互に活かし、Win-Winの関係を築くことで、業界全体の成長につながると確信しています。

―――伊原社長が目標とするビルメンテナンス業界の姿をお聞かせください。

伊原 目標は、ビルメンテナンス業界が「社会に不可欠な存在」として、より広く認知され、適切に評価されることです。そのためには、個々の企業の技術力向上はもちろん、業界全体としての品質保証や信頼性の確保が重要です。

栃木県協会としては、会員企業の成長を支援するプラットフォームとしての機能を強化していきたいと考えています。具体的には、企業間の情報交換や協力関係の促進、人材育成支援、人手不足など業界の課題解決に向けた取り組みを推進していきます。

また、当社・栃木県協会の両方で社会貢献活動にも積極的に取り組み、地域社会との関係強化も図っていきたいと考えています。ビルメンテナンス業界の発展は、安全で快適な社会インフラの維持につながります。その意味で、私たちの活動は地域、ひいては社会全体の利益に直結していると感じております。

令和7年の年間スローガンは「時代の流れ、社会の変化を感じ、柔軟な発想と対応力で企業の成長・発展を目指す」