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ビルメンテナンスは、エコロジーカンパニーだ。そう言える時代が来た。

2022/02/01 17:15

2022.02.01 17:15 更新

ビルを守り、人を守り、地球を守る。
ビルメンテナンス業は、
これからの社会維持に欠かせない
重要なプレイヤーです。

―― 幡社長がテックサプライを起業されて、今年で何年になりますか?

 まる27年が経ちました。

―― 聞いたところでは、ご主人が亡くなられて起業なさったのだとか…。

 はい、そうなんです。私が34歳の時です。
私は大学を卒業してからビルメンの会社に入社しまして、その職場で主人と出会い、結婚しました。それから10年間、専業主婦をしていたのですが、主人が病気で亡くなってしまったのです。実は主人は腎臓が悪くて、透析を受けるということを結婚前に聞かされていました。

1994(平成6)年、伴侶を病気で失い、3人の子どもたちを育てるためにビルメンテナンス会社を起業した幡優子氏。同氏が代表取締役を務める株式会社テックサプライはそれから28期を経て、北海道札幌市を基盤に多くの従業員を雇用し、ビルメンテナンス事業、警備事業、環境事業、教育事業に邁進している。

 ですので、主婦をしながら主人の透析生活に寄り添ってあげようと思いながら暮らし、いつかこの日が来るかもしれないということも心の中で覚悟はしていました。
けれど実際に主人が旅立った後に、とにかく3人の子どもたちを食べさせなければならないし、育てなければなりませんでしたし、家のローンも残されていました。そこで子どもを食べさせ、ローンを払うために、私には何ができるだろうと考えたのです。
私は実家が北海道東部にある厚岸町の酪農業で、子どもの頃は牧場で牛の搾乳を手伝っていました。ですので私にできることは、牛の乳しぼりか、大学を出てから勤めていたマンションやビルの管理をするビルメンテナンスの仕事のどちらかになります。
そこで住んでいる札幌の街でできるのはどちらだろうと考えて、「うん、それはビルメンテナンスの仕事だね」と、決めました。

―― 再就職ではなくて、起業を決意したのは何故ですか?

 亡くなった主人も、勤めていた会社から独立して仲間たちと新たなビルメン会社を興していましたし、その姿をそばで見ていたからでしょうね。それに子どもを育て、家のローン返済をしっかり行っていくためには、自分で自分の給料が決められる仕事のほうが良いでしょ(笑)?

―― もの凄いバイタリティです。


経営のケの字も知りませんでしたし、人を雇わなければできない仕事でもありますから、もちろん不安だらけでしたが、最初は小さなビルの清掃、設備メンテナンスから始めて、一日、一年と悪戦苦闘しながら今日までやって来ることができました。

―― そうして経営者人生をスタートさせ、会社を軌道に乗せた幡社長が現在、環境事業への取組みを加速させているのはどういった理由からですか?

 弊社は清掃が約7割、警備が約3割近くで、その中に教育事業や環境事業を入れているのですけれども、考えてみればビルメン自体が環境産業じゃないですか。建物をきれいにしたり掃除をしたり、そしてその建物の中で働く方たちの健康や生命を守り、建物の生命も守っていく仕事です。

そういったことから考えていくと、建物をただ磨いていくだけではダメで、どういった洗剤を使うべきなのか。そこから環境への配慮を考えるようになり、「少しでも生分解できる安全な洗剤を使っていこう」「建物だけでなく、自分たちの子や孫たちにも悪影響のない、地球全体が安全でいられる材料や方法を選ぼう」と思い至るようになりました。

それに私は子どものころから、木に登ったり牛や動物たちと遊びながら育ってきましたし、人間も哺乳動物の一つだという思いが強くありまして、その時々の風の変化や自然の匂いに対する感度を失ってはいけないと信じて今も生きています。私たちがきれいな空気を吸って、安全な水を飲んで生きてくためには、山には木が生えてなければいけませんし、川や海には魚がいなければなりません。
つまり全体がバランスをとって調和しなければ環境は保たれません。

早くからSDGsテーマに共感し、取組みを進めてきた幡優子氏とテックサプライ。中でも力を入れているのが環境事業で「使用済み衣料」「使用済みペットボトル」のケミカルリサイクル推進をはじめ、循環型経済に欠かせないビルメンテナンスの在り方を探求し続けている。
テックサプライでは、オフィスなどから大量に廃棄される紙書類、コピー紙などのシュレッダーごみを原料資源として回収し、「エタノール消毒用ジェル」を生産するプロジェクトに参加している。

 清掃の仕事をする中で、たとえば特別清掃で生分解できる洗剤を使おうとスタッフに提案すると、「そんなものでは汚れが落ちません!」と反対されることもありますし、残念ながら現在はまだすべての面で環境安全性が高いものを導入できる状況ではありませんが、であれば、ホテルをはじめとした日常清掃の中では使用するものは生分解できるものを使うなどの工夫を重ねています。

―― ビルメンテナンスは、地球と都市のエコシステムを維持する重要な仕事だということですね。

 「ビルを守り、人を守り、地球を守る」というのがテックサプライの合言葉で、私たちビルメンテナンスの使命だと思っています。

―― 全国ビルメンテナンス協会では「エコチューニング」という設備管理の省エネ化も推進していますが、この分野での取組みは?

 札幌市には既存設備を生かしながらエネルギー使用量削減と経費削減を行う、札幌型省エネ「サッポロ・エネルギー・ゲートウェイ」というのがありまして、弊社も参加しています。適温を保ち、少しでも使用するエネルギーを減らすということは、皆さんできるじゃないですか。
できることはしっかりやっていくべきです。

同社の環境活動は代表の幡氏が、書籍『捨てない未来はこのビジネスから生まれる』(岩元美智彦氏著・日本環境設計(株)会長)と出会ったことから、多岐に渡って本格化。写真の再生ストローや地元高校での再生エコバッグ作りなどにも広がっている。
同社も参加している、使用済み衣料を再生原料として航空機のバイオジェット燃料を生産する「10万着で飛ばそう!JALバイオジェット燃料フライト」のポスターと、熊本地震の被災者支援の感謝の気持ちとして贈られた「くまモン」が社内に飾られていた。

 それと「洋服から洋服を作る、石油を使わずにポリエステルを取り出す」技術を持っている会社と5年前に出会いまして、そこが現在「石油を一滴も使わずに、ペットボトルからペットボトルを分子レベルまで戻して再生産する」という無限ループのような技術を開発したので、この活動にも参加しています。
この方法だと石油からペットボトルを作るより、CO2も50%近く削減できるのです。

―― それは画期的な技術ですね!

 ビルメンテナンスの仕事は担当するビルから出てくる廃棄物量も減らしていかなければなりません。
ですのでこれまでは「ゴミ」として廃棄されていたペットボトルも「資源」として再利用し、かつ「石油を使わずに再生産する」という方法は、ビルメンの環境事業としても強力な武器になると思い、積極的に取組みを進めています。
こうした新しい科学技術も採り入れながら、地球と都市を繋ぐエコシステムの担い手になることが、これからのビルメンテナンスの姿だと思っています。
そしてこのエコシステムを作ることによって新たな雇用を生み、雇用を守り続けることが、持続可能な企業経営には必要なことなのです。