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顧客の要請を実現してこその「スペシャリスト」。小さな企業の大きな生存戦略。

2023/01/25 10:00

2023.1.25 10:00 更新

会社経営だけでなく、協会活動に参画したことで視野が広がった。

―― 四国ビルメンはお祖父様が創業されたと伺いましたが、学生時代から経営を意識していましたか?

長池 実は、若いころは会社のことはまったく考えていませんでした。世界をまたにかけた仕事がしたいと考えていて、高校・大学時代はアメリカに6年間留学していましたし、帰国したあとも中国に2年間ほど語学留学に行き、海外経験を積んできました。

―― ワールドワイドな仕事を目指していたのですね。

長池 そうですね。今の仕事とは直接的なつながりはないですが……。それでも若いころに海外、しかも2つの大国で生活できたことは、今になっても非常に良い経験となっています。

―― 会社を継がれたときはどういった状況だったのですか?

長池 四国ビルメンは初代となる祖父が創業し、兄が父の後に三代目を務め、私で四代目になります。
いまから10年ほど前、当時四国ビルメンの社長をしていた兄が父の政治基盤を継ぐことになったため、代替わりで私が社長に就任することとなり、そこで初めてビルメンテナンス業に触れました。

―― 会社を継がれた当初の苦労はありましたか?

長池 当時はわからないことだらけで、まずは現場で作業を従業員と一緒に行い、ビルメンの基本の基本から覚え始めたくらいなので、ビルメン業に精通しているわけでもなく、父の会社を継ぐとも考えていなかったので、経営学に精通しているわけでもありませんでした。
会社を継いだ当時の私は、「稼ぎたい! 会社を大きくしていきたい!」という気持ちはあまり強くなく、「従業員に長く健康に働いてもらうこと」「取引しているお客様にこれからも満足してもらうこと」を一番に意識していました。なので、就任早々に現実と理想のギャップに苦しむようなことはありませんでしたね。
経営者になってから実感したのは、よく言われているとおり、経営者は孤独であるということでした。とはいえ四国ビルメンの社長としては、上場企業や、新進気鋭のベンチャーなどの経営者のようなふるまいをすることが私の仕事ではないと感じています。

―― と、言いますと。

長池 四国ビルメンの社長の仕事は「できるだけ気を遣うこと」だと思っています。常に従業員、社会、お客様に気を遣い、今までやってきました。お客様がいなければ商売が成り立ちませんし、それ以前に従業員がいなければ会社が成り立たない。なので、社員の生活を守り、健康で働いてもらうために、いろいろと考えていて、長く四国ビルメンで働いてもらうためも、「ファーストプライオリティは家族」ということを常に伝えています。おかげさまでアットホームな、仕事がしやすい会社になっていると自負しています。

―― 長池社長は協会活動にも熱心とお聞きしました。

三瓶 社長業に少し慣れて、自由に使える時間が増えてきてから、地域のことを考えるようになったんです。
 もともと、父と兄から「ビルメン業は地域への奉仕の精神がなければならない」と説かれていたこともあって、協会が行っている地域貢献活動に参加するようになりました。

―― 今日(取材当日)の社会貢献活動でも陣頭指揮をとられていましたね。

長池 はい。ビルメン事業者の代表として、地域社会に貢献していかなければならないという思いからですね。特にビルメン業界は高齢者や就職困難者の最後の受け皿になるべきと思っています。
……そこから、いつの間にかビルクリーニング技能検定や講習会といった、協会活動のお手伝いを積極的に行うようになっていました。
現在では徳島協会の青年部会長、徳島協会常務理事をさせていただいています。協会事業に携わってから忙しくはありますが、良いこともたくさんありました。

―― 良いことですか?

長池 一番は業界の中核が見えるようになったことです。
1手、2手先を見て会社の舵取りをしていく必要がある経営者の立場としては、協会活動への参画を通して、さまざまな情報に触れることができ、視野が大きく広がったことは、たいへんありがたいことでした。

―― 業界の中核とおっしゃいましたが、今の業界の「1手2手先」とは?

長池 今、ビルメン業界は多くの問題を抱えていると言われています。人手不足、低賃金、高齢化、新陳代謝がうまくいかないこと、コンプライアンス教育のノウハウに乏しい、ITやロボットを十二分に活用できていないなどなど……。マイナスに働いてしまっている要素を数え上げればきりがありません。それこそ人手不足や低賃金の問題は、私がビルメン業界に関わりだしてから少なくとも20年間は、変わらず大きな問題としてそびえ立ち、多くの業界人の頭を悩ませています。……が、実のところ私は業界の未来をそこまで悲観的に捉えてはいません。

―― それはなぜでしょうか?

長池 日本のビルメン業界の清掃、衛生に対してのスタンス、技術力に自信を持っているからです。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、公衆衛生の関心度、重要性が3段飛ばしで高まっていきました。それに伴って、一般の方々やビルオーナーが我々に求めるも「きれいか、汚いか」の概念が、「衛生的か、不衛生か」に変化していきました。感染の心配があるか・ないか、がお客様にとって目下の焦点となったのだと私は感じています。「清掃」に対する価値観に変化が起きている今がチャンスであり、この変化に適応できれば、ビルメン業界、清掃業界はもっと魅力のある業界へと変化していけると思っています。

―― ピンチはチャンスに変えられると。

長池 そうですね。もちろん、はじめは新型コロナウイルスとの「付き合い方」も分からず大混乱に陥りましたし、最前線で働く私たちビルメン業は大ピンチだったと思います。まだまだ課題もたくさんありますが、しかしまたとない大きなチャンスでもある。
私は、このコロナ禍による変化を切っ掛けに、「日本の衛生管理が世界一だ」と言われる未来を目指すことができると思っています。
もともと日本の技術力は世界でもトップクラスだと思います。これは根拠のない「なんとなく日本の衛生観念ってすごい」という話ではなく、アメリカ・中国で生活をしてきた経験から感じていることです。
日本にいると当たり前になっている「きれいで、清潔」な状態が、いかに貴重なものなのか、その重要性がよくわかりましたので、これは自信をもって言えます。
これまで業界内、関係者にしか伝わっていなかった「衛生」を、世界中が気にかけるようになっています。世界の衛生事情がニュースに流れるようになっています。つまり、日本のビルメン業にとっても、発信ができる最大のチャンスです。

―― もとからある「衛生管理」という武器を伸ばしていくということですね。

長池 はい。今、全国ビルメンテナンス協会では「ICCC(感染制御衛生管理士)」という形で、感染症の専門家や医療関係者とタッグを組み、「清掃」から「防疫」へと体系化すべく、事業を進めているかと思います。
このコンセプトは非常に共感できるものです。これに資機材メーカーを加えるなどして良い化学反応が起き、公衆衛生の基盤が進化し労働者が安全な状態で仕事ができるとなれば、日本の衛生管理は世界トップ「クラス」ではなく、間違いなく世界トップと誇れるものになっていくと思っています。
世界に認められる、世界トップの衛生管理技術を持ったビルメン業界は日本の魅力のひとつとして国内外に認知されていくでしょうし、日本に来ている技能実習生たちも、本気で技術を学んでくれるようになると思います。
そして、価値が高まっていけば当然、清掃の発注の適正化も進んでいき、やがて国内の若者にも興味を持たれるようになっていく……。そんな未来があり得ると、割と楽観的に考えています。

―― そのために、どんなことへ取り組んでいきたいですか?

長池 協会の目線にはなりますが、まずは業界全体として感染症のことを「当たり前」に知らなければなりません。例えばビルクリーニング技能検定の1級では、感染症の基礎知識だけでも習得を必須とするとか。公衆衛生の注目度があがったということは、一般の方でもある程度の知識を持たれていますから、ビルメンはいままでより厳しい目で見られます。お客様から説明を求められる場面も増えてくると確信しています。
自治体からの要請で私が講演を行うことになった際、いちから感染症の勉強して講演をさせていただきましたが、それだけでも知らなかったことや学ぶべきことが相当量ありました。
技術力を誇れる「スペシャリスト」になるためには、社会のニーズと乖離していてはいけません。ただ床をピカピカに磨き上げる技術だけでは社会の要請に応えられておらず、本当の意味での「スペシャリスト」とは言えません。一度原点である「建物を安全で衛生的な環境にすること」に立ち返り、公衆衛生の技術、知識を磨きなおし、顧客に喜ばれる清掃を考え直す時期だとも思います。
「きれいにしてなんぼのビルメン」は、衛生的であるという意味での「きれいにしてなんぼ」へと変化していくべきだと考えています。

―― 四国ビルメンとしてはいかがでしょうか。

長池 四国ビルメンは正直、小さな会社です。ですが、小さな会社だから「特化」していくことができると思っています。まだはっきりと「こんな会社にします」ということはここで発表できませんが、中小企業には中小企業の戦い方があって、「これだけはもう四国ビルメンを頼るしかない」と、顧客にも、同業の皆さんにも、そして地域社会からも頼ってもらえるような「エキスパート」として、本質は見失わないよう足元を固めていきたいですね。

創業社長の「ビルメンテナンス業は地域に奉仕する精神がなければならない」という言葉を受け、大雨時に無料で自由に使ってもらえるようにと設置している「土のうステーション」。
小松島湾や神田瀬川など、水辺が近い地域柄か、補充するとすぐに地域の皆さんが持っていかれるという。
▲毎年、県協会が実施している社会奉仕活動では、長池氏が青年部代表として運営の中心となり、関係各所との調整など力を尽くしている。

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