日本の原風景の地から「変化」に挑む。発想の転換で「一棟管理」から「エリア管理」へ
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アスカ美装株式会社
代表取締役:森脇 大統
日本の原風景の地から「変化」に挑む
発想の転換で「一棟管理」から「エリア管理」へ
―― まず初めに、気になっていることについてお聞きしてもよろしいでしょうか
森脇 どうぞ。
―― アスカ美装さんの事務所を拝見して感じたのですが……外観がレストランですよね?
森脇 レストランですね。事務所を広げようという時に、狙っていた物件だと駐車場が狭くて困る……ということで、ちょうど売りに出ていたレストランの店舗を購入して事務所として使っています。レストランのオーナーさんが住んでいた住宅なども敷地内にあって、現在は会議室になっています。
レイアウトなどはすべて変更していますが、レストランの名残は見ていただいた通りです。
事務所に見えないおかげで、面接に来ていただいた方が「事務所の前で迷子になっている」なんてこともありました(笑)。
▲アスカ美装本社外観。レストランの店舗を事務所に活用している。
―― 創業社長はお父様とのことですが、会社を継ぐきっかけは何だったのでしょうか
森脇 「継ぐことありき」の会話などが嫌だという気持ちがずっとあって、会社を継ぐ気はなかったんです。
はじめに就職した会社が結構忙しいところで、うつ病になってしまいまして。これが実は仕事の忙しさによるものではなく、親子関係が原因だったんです。
生まれ育ったのは、小学校もクラス編成もないような奈良の田舎で、自分は社長の息子で……。当時アスカ美装は今ほど大きくありませんでしたが、それでも私自身ではなく「アスカ美装の森脇社長の息子」という扱いをずっと受けていました。
私自身が頑張ろうが頑張っていなかろうが、自分の後ろにいる父を見られていましたし、自身も「いい子で居続けなければならない」という勝手な強迫観念の中で育ってきました。
まだ大学生ぐらいまでは十分睡眠もとれていて、身体も健康だったので特に顕在化しなかったのですが、社会人になってから忙しくなった結果、心身のバランスを崩してしまい、うつ病になってしまいました。
その後半年間ほどひきこもりのような生活になり、社会保険料や生活費などを親が立て替えてくれました。
元々、「会社を継ぐ」ことに拒否感があったのですが、結局うつになって働けなくなってしまったときに私を直接的に養って助けてくれたのは両親ですが、その元となったのは「アスカ美装」という会社で働いてくださっている、私が見たことのない従業員の皆さんや、協力会社の方々のおかげでした。そこで父親にというか、「アスカ美装」に対して、気持ちの変化がありました。
―― その後そのままアスカ美装に?
森脇 いえ、直ちに跡を継ぐ覚悟ができなかったことや、親族が多い会社でもありませんので、自分が継がなくても良いのではないか、との思いがありました。半年程度休んで、社会復帰するというときに、一度親元から完全に離れたいという気持ちもあって、思い切って東京の企業に就職したんです。そこでは、業界も違いますし、私が「どこの誰か」なんて誰も知らない環境で、あくまで「いち転職者」として仕事をさせていただきました。
その後3年間ほど仕事をさせていただいたのですが、一生懸命働いているうちに、周囲から「自分自身の評価」をいただけるようになり「頑張ってやったらちゃんと評価されるんだ」という実感や、自信が得られました。
また、うつ病から回復して社会復帰した経験から、いずれ自分も「人を救える立場になりたい」「人を救うためには経営者にならなければダメなんだな」と考えるようになりました。
―― それが「跡を継ぐ」という選択だったということでしょうか
森脇 はい。その時在籍していた会社で経営者を目指すか、それとも自分で独立して経営者を目指すか、跡を継いで経営者を目指すか、と考えた際、最も確率が高く、一番の近道になるのが父の会社に入る、という方法だったというわけです。
もちろん、会社を継ぐ能力がなければそれまでだったのですが、幸いにして経営者になれています。
―― 病気になられたことが大きな転機となられたのですね
森脇 うつにならなければ経営者を目指すことはなかったと思いますし、もしかしたら今頃ほかの仕事をしていたんじゃないかなと思います。なっていなければ「人を救える立場になりたい」とも思わなかったでしょうし。
「人を救う」というのは私が働けなかった時期を支えてもらったようなこともそうですが、例えば、アスカ美装からほかの会社に転職される際でも、履歴書に職歴を書いてメリットがあるような会社にしたい、というのが大きな動機でした。実際に私が新卒で就職した証券会社が有名な企業だったこともあって、社会復帰して就職する際に有利に働いたこともあったので、そういう意味でも誰かの助けになれるような会社にしていきたいなと。
うつ病であったことをこんなに軽快に話す方は少ないと思います(笑)。経営者が良い面ばかりでなく、こういったこともオープンにお話することで、うつで悩んでいる方や、誰かの気の持ちようが少しでもプラスになるなら良いなと思ってお話ししています。いい面ばかり話していたらズルいじゃないですか(笑)
―― 現在、業界の課題に感じていらっしゃることは何でしょうか?
森脇 「人手不足」はずっと言われていますが、現状のビジネスモデルのままでは仮に人をいくら採用できたとしてもどんどん疲弊し、いずれ成り立たなくなっていくのではないかと考えています。
年々、3%程度ずつ最低賃金が上がっていっていますが、実際の地域相場感ではそれ以上の上り幅になっています。そうなったとき、それだけメンテナンスコストに反映できるかと言えば、お客様の側も「無い袖は振れない」状態です。
値上げ交渉や改善提案をしたくても、スイッチングコストが非常に低い業界なので、他社さんが「上げずにやります」と言えば、ほぼ現場に人が残ったままでスライドできてしまう。
改善提案をするにも、大都市圏に比べ地方ではひとつひとつの施設規模が小さいことや、契約そのものも例えば週三日、3時間、などのように縮小されていってしまえば、ますます工夫の余地が残らなくなっていってしまいます。
―― そんな中、どのように戦っていこうとお考えなのでしょうか
森脇 業界構造的に、ほとんどのピークタイムが午前に集中しています。時間に縛られたままでは、ピークタイムで必要となる大人数を抱えることになるため、コスト高を加速させてしまいます。
お客様の側も苦しい状況の中、現状の規模・コストの中で改善を行っていかなければ疲弊する一方です。どうにか「時間の拘束」を緩和しつつ、現場単位で従業員を確保するのではなく、エリア単位で考え、先ほどお話したような「規模感」を確保して、やり方を変えていかなければならないだろうと考えているところです。
とはいえ、スタッフさんに「やり方を変えてもらう」だけでなく働き方も変えてもらわなければならないなど、スタッフの意識の変化にも大きな課題があります。
ストックビジネスで変化なくやってきた業界なので、「変わりたくない」というモチベーションがどうしても強くなってしまうところがあると思います。
業界の課題としては、働く方一人一人も「このままでは業界が疲弊してしまう」という共通認識をどれだけ持てるかだと思っていますが、どうしても非正規の方が多いことも手伝ってダイナミックな働き方への理解を頂くことがまだまだハードルになっています。
当然、お客様にもご理解を頂かなければならないので、例えば作業の周期を減らしたり、時間を変えても「きれいに感じてもらえる、快適に感じてもらえる」ような研究もしているところです。
―― 性能発注的な考え方も取り入れて行かなければならないということですか
森脇 そうなります。例えば「村」単位での包括契約として自治体物件が受託できれば、従来と仕様を変える必要がありますが、単価を抑えることができるようになります。仕様で「何時から何時まで」と決めてしまうと、大きな割合を占める人件費の部分がある程度決まってしまうので、ビルメンテナンス側でのコストコントロールができません。そうなると、後はどんどんお互いに疲弊していくだけになってしまいます。
先ほどお話したとおり、仕様を変えても「快適に感じてもらえる」ようにするとか、他の「コントロールの効く」付加価値を提供することで全体として満足度を確保するとか、自分たちの側でコストをコントロールできるような仕組みを構築していかなければ、この先生き残っていくことが難しくなっていくのだろうと考えています。
そういった面から考えた「草刈りのサブスクリプションサービス」をビジネスコンテストで発表して、賞を頂いたりもしました。
―― 草刈りのサブスクですか?
森脇 草刈りって、草が生えたときに刈るじゃないですか。ということは、大体ピークタイムが被っているんです。でも、お客様からすると草を刈ったことで利益が上がるわけでもないので、コストを下げたい。
私たちにとっても、「前年予算がこうだから」と予算が決まっている中で、人件費なども上がっている中、予算転嫁もできない「儲からないけどやらなければならない」というネガティブな受注になってしまっているんです。
先ほどお話した「コストコントロール」の考え方をしたとき、「伸びてきたから刈って」というのはお客さん都合で「いつ作業して」と作業に駆り出されているので、コントロールできない部分になってしまっています。
そこで、温水除草による熱処理をすることで「草が生えない環境をキープしたら良いのでは」という目線からサブスクリプションでのビジネスモデルを考えました。
これは例えば「刈高何センチ以下をキープします」というような品質保証がしやすいですし、「伸びてしまう前に、手が空いたときに作業に行ける」ということでコストコントロールがしやすいのです。ちなみに、サブスクリプションと品質保証の組み合わせが面白い、ということでこのコンテストでは優秀賞をいただきました。
いずれはセンサーやAIなどの技術と組み合わせていくことで、更に品質管理がしやすくなるのではないかと思います。
▲「温水除草システムによるサブスクリプション型メンテナンス管理事業」プレゼン資料と同社に飾られた表彰状
―― 挑戦的な取り組みですね
森脇 はい。例えばエリア単位での受注と組み合わせるなどしてさらにコストコントロールが効くようになっていくだろうと考えています。サブスクは面で受注していかないと継続が難しいところもありますので、エリア内でより受注しやすくなるための仕掛けなども考えていきたいと思っています。
こうしたビジネスモデルを考え、組み合わせて「作業の販売」から「価値の販売」へシフトして、新たな市場に挑戦していければと考えています。
▲このほかにも、カメラ・センサー・AIによる警備システムの検証や、警備中に清掃ロボットをステルス化することなど、技術と発想の組み合わせで新たなビジネスを生み出そうと試行錯誤している
▲日本建国の地として知られる橿原市
Corporate Information
- アスカ美装株式会社
- 〒634-0072 奈良県橿原市醍醐町296-1
- TEL:0744-24-1757(代表)
- 代表取締役社長:森脇 大統
- 事業内容:設備管理・清掃管理・警備、指定管理業務、PFI事業 ほか
- https://www.asukabiso.co.jp/