仕事を選べるビルメンに。~大切なのは業務の受託判断~
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沖縄ビル管理株式会社
代表取締役社長:新垣 淑典
仕事を選べるビルメンに。~大切なのは業務の受託判断~
――― 沖縄ビル管理さんは”沖縄で最初にビルメンテナンス業を始めた”と伺いました。
新垣 はい。この沖縄ビル管理(株)は昭和41年8月1日に設立されました。創業者の前職はアメリカから那覇港に着いた米ドルを琉球銀行本店の金庫に運ぶ会社に所属していました。そのつながりで琉球銀行さんからビルメンテナンスという業種があることを教えていただいたのが、創業のきっかけになったそうです。
当時の沖縄は急激に近代ビル化や高層化、マンモス化が進んでいたこともあり、これはチャンスだと思い創業したのが、沖縄で初めてのビルメンテナンス企業となる沖縄ビル管理でした。その創業メンバーの一員であった父が専務に就任し、その後社長となり、私が会社を継いだという経緯があります。
―― そのような経緯で沖縄県にビルメンテナンス業が誕生したんですね。
新垣 もちろん「ビルメンテナンス」という単語すら聞いたことがなかった時代でしたので、当時の創業メンバーは大変苦労したと聞いています。メンバー全員で東京まで足を運び、武者修行のごとくビルメンテナンスという仕事を学んだそうです。
当時は沖縄という島にはビルメンテナンス業専用の資機材がひとつもない状態だったのですが、東京で仕事を学んでいく中で縁が生まれた資機材メーカーの株式会社リンレイさんが沖縄でのビルメン業の参入に協力してくださり、なんとか創業に漕ぎつけたと伺っています。
―― 新垣社長が沖縄ビル管理を継がれたきっかけは何だったのでしょうか?
新垣 元々は「サービス業の会社を起業したい!」と考えていました。サービス業といってもビルメン業ではなかったのですが。
実のところ私は次男ということもあり、会社は兄が継ぐものだと思っていたので、サービス業の会社を起業するという夢に向かって全力でした。若い時から経営学やサービス業のノウハウなどをずっと勉強をしていましたし、大学を卒業したのち、将来のためになると思いホテルマンになりました。
その後はホテルマンとしての経験を積みながら、30歳の時には組合の書記長を任せていただいて、次は委員長だと意気込んでおりました。といいますのも、組合業務をしていた関係で一般のホテルマンの方よりたくさんの事業に接し、多くのノウハウを学べたのです。後は委員長につけば一通りのことが経験でき、必ず夢を実現するうえで助けになると思っておりましたが、人生に大きな転機がありました。
先代や兄、当時の会社役員のみなさん、それぞれの思惑の結果、私が会社を継ぐという選択肢が生まれたのです。もともと継ぐことはないと思っていましたので、正直なところ面食らいました。しかし、多くの方からお願いされたこともあり、悩んだ末にビル管理に入社する決断をしました。最初はしぶしぶという気持ちもありましたが、結果的には「決断してよかった」と思っています。
ただ、ホテルの退職を決意した日の翌朝、仕事を辞めることを私が報告しに行く前に、なぜかホテルの上司がそのことを把握していたのは驚きましたが(笑)。
―― そこから社長への道が始まったのですね
新垣 はい。ビルメンテナンス業が未経験の私は分からないことだらけで、ゼロからのスタートでした。現場業務から仕事をはじめて、がむしゃらに仕事を覚えました。その中で、この会社のすごい部分にふと気付きました。
言い方は失礼かと思いますが、「お客様の質」が私から見ても非常に理想的だったのです。
これは営業部隊の高い能力と会社設立当初からのお付き合い、信頼関係の結果ですが、ホテルマンの経験しかなかった当時の私は衝撃を受けました。もちろんBtoBが中心のビルメンテナンスと、BtoCが中心のホテルでは全然違うのだろうとは思いますが、会社間の大きなトラブルや、倒産を含む未収金などの金銭的トラブルが発生したことが一度もなかったのです。これは現場マネージャーがオーナー様との間に築き上げた高い信頼関係が大きな要因であり、弊社の財産であり、土台となっています。
かれこれ50年以上の付き合いとなるお客様も多くいらっしゃいますし、”金銭トラブルゼロ”は私が社長を継いだ現在も続いており、このお客様とのよい関係が弊社の強み、誇りとなり安定性にもつながっています。
ホテルマンの経験で気づくことができた
「際限のない”アウトソーシング”は受けるべきではない」理由。
―― 沖縄県といえば観光業というイメージですが、やはり新型コロナウイルス感染症の影響は大きかったのでしょうか?
新垣 おっしゃるとおり、沖縄県の産業の中心は観光業です。特にコロナ前は観光に訪れる方も右肩上がりで、国際通りは毎日観光客で賑わっていて、コロナ前の2018年度には、初めて1,000万人の大台を突破するほどでした。そんな中でコロナの大流行による外出自粛・渡航制限でしたので、沖縄県としては大打撃を受けました。
ようやくコロナ禍も多少落ち着いて、最近は県外の方も含め、人とお会いする機会が増えてきたのでよく聞かれます。「コロナの影響は大丈夫だったのか」と。しかし、弊社もコロナの影響は受けましたが、幸いにして乗り越えられる状況にありました。
―― どのように乗り越えられたのでしょうか?
新垣 当時は新型コロナウイルスという感染症でパンデミックが起こるとは思っていませんでしたので、運が良かったという部分もありますが……今から約10年前、私は社内でとある方針を打ち出しました。
『ホテルの仕事は新しく受注しないでほしい。次の契約更新も受けないでほしい』という方針です。それは現在も続いており、弊社では現在も新規受注は行っておりません。
この方針を打ち出した当時、人材不足が加速していき、業務の効率化が求められるようになっていく中で「アウトソーシング」を際限なく受注してしまうと、会社として相当苦しくなっていくと考えておりました。特にホテルは「宿泊者の数」などの外的要因によって私たちの業務量も大きく変わってしまうため、業務の効率化を実現するのは非常に苦しいですし、一般的なオフィスビル等に比べて見えない「アウトソーシング」の量が膨大だと思っています。私自身がホテルマンとして働いていた際「清掃スタッフや施設・設備管理者は本当にさまざまなことをやってくれるな」と感じていました。
立場が変わって、逆に「ビルメン企業の経営者」として考えると、ベットメイクはもちろんのこと、「客室清掃」とひとことに言っても業務は多岐にわたりますし、管理できていない「色々なことをしている」という状況が生まれやすくなってしまい、アバウトに業務を請け負ってしまっている状況が発生してしまっており、「今後は受けるべきではない仕事なのかな」と考えたのです。
―― 決断された当時は大変苦労されたのではないでしょうか
新垣 反発……とまではいきませんが、社内でも困惑があったかと思います。これまでのお付き合いもありますし、売上も大きいホテル業務を手放してしまう以上、仕方がないことでした。
この方針を立てて数年が経過して、ホテル業務から手を引いている中、一度だけリゾート地のホテルの開業に伴う業務を請け負ったことがあります。久しぶりの新規受託です。
……が、やはり想像どおりでした。現地で人を集めようとしても、なかなか応募は来ません。どれだけ時給などの条件を上げても、苦しい状況は変わりませんでした。何とか最低限の人数を集めましたが、清掃員の休みが重なる時や、ホテルの繁忙期……繁忙期でなくてもお客が集中した時にはあっという間に人手が足りなくなり、那覇市の本社から現場まで片道2時間かけて応援を派遣する日々でした。
4時間の業務のために、往復4時間の時間をかけていたわけです。多くの社員にかなりのしわ寄せがあり、大変苦労させてしまいました。やはり従業員の急な増員が必要であったり、作業量が日々変わる業務は大変難しいなと痛感し、安定性が重要だと再認識しました。
人手不足を受け入れて次を考える。
―― 今では人材難で本社から応援をという話をよく伺いますが、新垣社長はかなり前から意識されていたのですね。
新垣 ホテルで働いていた経験がかなり活きていると思っています。そして、早めに方針転換できたことで、安定した業務内容が確保でき、それによる業務効率化を図ることができています。
やはりビルメン業界で働く方々は、決まった場所やルーチン業務での仕事を比較的好んでいるように感じています。応援業務や残業など注力するより、決まった仕事に全力を出し切る方々が多いのです。どうしても緊急業務や仕事の忙しさに波ができてしまう業務が多いと、社員の方々も苦しい思いをして無理に働くことになってしまいます。そういった社員にも無理なく、気持ちよく働いてもらえるようになるのであれば、「安定性」を求めて方針を変えたことは成功だと思います。
―― 最後に今後のビルメンテナンス業界について一言お願いします。
新垣 人手不足はどうしようもない流れだと思っています。人手不足の解消方法は常に模索しておりますが、その人手不足をどう相手していくか、少なくなっていく人数でも対応できる体制づくりを常に考えて会社を経営していかなければと思っています。
目先の利益に囚われず、どんな仕事でも受注してしまうのではなく、計画性をもって企業を運営していく。業界全体としてビルメンテナンス企業が仕事を選ぶ時代が来ていると思います。
Corporate Information
- 沖縄ビル管理株式会社
- 〒900-0033 沖縄県那覇市久米2丁目33番1号
- TEL:098-861-8555(代表)
- 代表取締役社長:新垣 淑典
- 事業内容:ビル建物の総合管理業務、ビル建物の清掃管理業務、ビル建物の営繕管理業務、ビル管理業務に附帯する運送業務、保安警備業務、その他上記各号に附随する一切の業務
- http://obk-group.co.jp/