経験と革新の融合 ―ビルメンテナンス業界の新たなステージへ
FILE 069
株式会社 富士管理
代表取締役社長:谷川 慶多氏
――社長自身の「新人時代」について教えてください。
谷川
そうですね、入社した経緯から話しましょうか。私の父が先代社長を務める富士管理に入社したのは30歳を過ぎた頃です。そこに至るまでは紆余曲折がありました。
まず、高校生の頃から富士管理で定期清掃アルバイトとして働きましたが、そのまま入社はしませんでした。
アルバイトとして勤務する傍ら、趣味である自動車レース活動に興じながら、車のメンテナンスにも深く関わるようになりました。
この経験から、22歳の時に自身の自動車修理会社を開業することを決意しました。
車のメンテナンスにおいては、高い技術力と確かな知識を持つことが求められます。私は努力と経験を重ねました。
その結果、成功を収めた若手経営者として扱っていただき、業界の講演会に登壇することもありました。ただ、商売を継続することは簡単ではなく、未経験故に資金繰りにも大変苦労したこともありました。
そんな時、先代の父に相談したところ、厳しい叱責を受けました。父が私に対して言った言葉は、私の仕事観に大きな影響を与えました。決算書や資金繰りに対する理解が不足していることを恥じる一方で、自分がどのような存在になりたいのかを考える契機となりました。父は厳しい叱責を通じて、私に対して次のようなメッセージを送ってくれました。「商売は簡単なことではない。決算書や資金繰りを正確に理解し、経営に責任を持つことが大切だ。自分がどのような経営者になりたいのか反省し、自覚しろ」という具体的な助言でした。自動車業界で若手経営者と言われ調子に乗っていた自分を恥じました。
その言葉に触発され、私は自動車修理会社を他の有志スタッフに譲り、新たな挑戦・自己研鑽をするために富士管理に入社することを決意しました。
―――富士管理に入社されてから社長就任までの経緯を教えてください。
谷川
入社して数年後、アルバイト時代に培った技術や知識もあったため、現場責任者を任されるようになり、課長へとステップアップしていきました。
私が課長時代、当社は元請けとして直接仕事を取る考えはあまりなく、大手企業とのつながりから下請けとして頂くことが主流でした。私はそれに疑問を持ち、富士管理の宣伝を直接ユーザーにするためにダイレクトメールの実施を提案しました。同期の女性スタッフと協力し、病院や学校などをターゲットにしたダイレクトメールを送った結果、約15件の依頼を獲得し、成果を上げることができました。その中で、介護施設や病院などの清掃において、従来の価値観にとらわれず、感染症対策に着目しました。当時はまだ利用の少なかったATP測定器を使い、汚れを数値化することで、手すりやドアノブなどの触れる場所を重点的に清掃するアプローチを提案軸として考えました。結果、元請け会社として7件の新規受注にも成功しました。この取り組みが評価され、営業部長に昇進しました。そのような時に先代の父が突然の体調悪化となり検査の結果、肺がんと診断され、僅か半年でこの世を去りました。先代父の病床中、急遽私が社長に就任することになりました。
――社長に就任してから最初は何かご苦労はあったのでしょうか。
谷川 社長に就任してからの最も大変だったことは、創業期より会社の成長とともに昇進していた古参役員社員の方たちとの関係でした。
私は会社の変革を志向していた一方で、従来通りのやり方で問題ないと考える仲間もおり、私は危機感を感じていました。
社長として、会社の変革を進めるために、これまでのやり方に固執するメンバーと話し合いを重ねました。しかし、その中で意見が対立し、結果として一部のメンバーが辞職するなどの動きもあり、新しい人材の採用が必要になりました。
採用に際しては、営業力や発想力を重視しました。これまでの経験から、既存の人脈や業界経験者に頼るのではなく、新たな発想の営業力・行動力を持つ異業種からの人材を求めました。大変ではありましたが、適切な人材をが見つかり、結果的に人材の最適化が行えました。
このように、新しいメンバーの採用や組織の変革が最も大変だったと言えます。
――社長の立場について、どのような役割だとお考えですか?
谷川
そうですね。社長とは決断力と先見の明が求められる立場であります。多くの情報を集め、整理し、決断をする際には、徹底的な考察を行い、一人で深く考えることが重要だと思っています。普段、自宅でリラックスした状態で、思考を整理しアイデアや考えを書き留め、次の日までに整理を行っています。その後、時間軸を決め、迅速かつ確実な行動することを心掛けています。
――社長から見て、どんな社員が多いと思いますか?
谷川
積極的な者が多いです。
――社内で褒めたくなるような良い事案はございますか。
谷川
褒めたくなるような事案ですか。勿論沢山ありますが、実は、直接部下を褒めることは多少控えています。それには意味がありまして、社員同士認め合い褒めあう事が必要だと感じています。新入社員にはその指導役上司が、その指導役上司には更に課長や部長、といったように連結した関係があります。より強いチームワーク作る為には褒める文化と上司・部下での信頼関係が大切だと思います。私が横から入って折角のシナジー効果のタイミングを取ってしまうのは申し訳ないので。部下の自己成長を促し、良い点も悪い点もその者の責任とし、個々の自立を大切にしています。また、将来的には、各部門が独立した経営体となり運営されるホールディングス体制を取りたいですね。そうすることで全体がうまく機能することを望んでいます。そのため、直接的な褒め言葉よりも、部下の成果やチャレンジ精神を尊重し、成功体験を積むことを奨励しています。
――HPを拝見したところ、毎日社内ブログ更新されていますね。どういう経緯で始められたんですか。
谷川
実はあれは常務がやっているんですよ(笑)常務がもうこれはもう自分のノルマとしてやりますと自分に言い聞かせて頑張ってくれています。結構見ているお客さんもいたりしているんです。
――スタッフ向け教育サービス/客室清掃編「ManuaLooK」とはどういったものですか?
谷川
マニュアルを見るで「ManuaLooK」という造語です。ManuaLooKには、外国人労働者や再教育を必要とするスタッフのための教育プログラムが含まれています。例えば、日本語が理解できない外国人労働者向けに、作業手順や安全に関する情報が、クラウドアプリケーションを通じて母国言語の動画マニュアルで文章・アナウンスが提供されます。これにより、新人外国労働者を即戦力としての活用する事が可能となります。マニュアル項目の一つに「日本の習慣」を設けていまして各国と日本でのホスピタリティーの違いなどを勉強できるようにもなっています。習慣の違いでの現場トラブルやクレームは多いので、お役立ちしているようです。また、再教育が必要なスタッフに対しても、新しい職種や業務についてのトレーニングが提供されます。
このManuaLooK第一弾はホテル客室清掃編ですが、コロナ禍によってホテル業界で清掃スタッフに求められるスキルが変化した背景を受けて作成されました。コロナ以前は清掃会社や専門の方が清掃業務に従事しておりましたが、コロナ禍での客室低稼働や宴会需要の消滅で、仕事が減った元々料理人の方や宴会場スタッフの方が清掃業務を行うようになったホテルもありました。じつはノウハウが必要な清掃業務ですので皆様大変苦労なさっていました。ウィズコロナ時代になり、インバウンドでのホテル業界の需要拡大に伴い、清掃業務に従事するスタッフの絶対数が足りなくなりました。しかし、多くの日本の会社では、外国人労働者の採用や再教育に対する課題があります。そこで、外国人労働者に対しても効果的な教育手法を提供するために、スタッフ向け教育サービスマニュアルが開発されました。
このマニュアルは、クラウドアプリケーションを通じて、言語の壁を取り除き、外国人労働者が即戦力として活躍できるようにすることを目的としています。また、マニュアルの内容は、ビルメン業界だけでなく、他の業界にも適用可能なものとなっています。
■ManuaLooK総合トップページ https://manualook.jp
■ManuaLooK客室清掃編トップページ https://manualook.jp/hotel
――富士管理の今後の展開について教えていただけますか。
谷川
やはり、ビルメンテナンスが主要な柱であり、これは変わりません。ただし、設備や警備など、総合でのサービス提供はもちろん重要です。ビジョンとしては、ホールディング化に進むことを考えています。ビルメンテナンスの他に第2、第3の柱を設けて業界に多様性をもたらしたいですね。
具体的には、数字ではなくビジョンに基づく展開を目指しています。第2、第3の柱として、マニュアルやタイルカーペットのリセット施工などを考えています。たとえば、我々の技術を活かしてタイルカーペットのリセット施工を行い、SDGsに基づくリユースや障害者雇用を推進したり、新しい技術を活用した施工方法の開発やITを利用したビルメンテナンスの効率化を目指しています。
また、ビルメンテナンスの技術を活かして他の業界にも展開し、例えば、製造業において我々のアイデアを直接工場で実現できるようにすることも考えています。
さらに、東京オリンピックの選手村で使用されたカーペットの再利用やSDGsに基づく取り組みを進めています。東京都に無償で提供したり、障害者雇用やリサイクルに関する活動を広く社会に広めていくことが重要だと考えています。
これらの取り組みを通じて、地域社会や産業全体に貢献し、持続可能な未来を築いていきたいと考えています。
――最後に業界に向けて、何かメッセージはありますか?
谷川
そうですね(笑)生意気なことを言うつもりはありませんが、基本的には変化に対応し、進んでいくことが重要だと思います。この業界は業界先輩方の努力のおかげで大きく変化しました。昔はビルメンテナンスが地味な3Kの職業とされていましたが、今ではエッセンシャルワーカーとしての評価を受けるまでになりました。
しかし、私たちはこれ以上の変化を遂げる必要も感じます。新しい契約方式や技術の導入、そして新しい価値観の受け入れが求められます。時代の変化に対応し、新たなビジネスモデルを模索することが重要かもしれません。
また、若い2代目や3代目の方々にも、先代の教えを尊重しつつ、新しい知識や技術を積極的に学んでいただきたいと思います。経験と革新を融合させることで、より良い未来を築くことができるでしょう。
最後に、この業界の未来のために、今できることを精一杯行い、将来の業界発展に貢献してまいりましょう。
Corporate Information
- 株式会社 富士管理
- 本社〒191-0014東京都日野市上田129-1 FK ファーストビル
-
- [管理本部]
- TEL:042-847-8812
- FAX:042-846-9200
-
- [事業本部]
- TEL:042-847-8998
- FAX:042-510-5153
-
- [仙台営業所]
- 宮城県仙台市宮城野萩野町1-11-6 YSビル1階
- TEL:022-284-6556
- 代表取締役:谷川 慶多氏
- https://www.fujikanri.com//